仕事中にけがをしたら — 労災補償(Workers Compensation)の請求手続き
ビザの種類やカジュアルかどうかに関係なく、オーストラリアのすべての労働者は労災補償を請求できます。負傷の報告から治療、請求書の提出、拒否された場合の不服申し立てまで、5つのステップにまとめました。
労災補償(Workers Compensation)とは
労災補償(workers compensation)は、仕事中にけがをしたり業務が原因で病気になったりした労働者に、治療費、休業給付(賃金の一部)、リハビリテーション、永久障害補償を提供する制度です。オーストラリアでは連邦ではなく州(state/territory)ごとに運営されています — NSWはicare(規制機関はSIRA)、VICはWorkSafe Victoria、QLDはWorkCover Queensland、WAはWorkCover WA、SAはReturnToWorkSAが担当します。雇用主には労災保険への加入が法的義務として課されており、保険料は全額雇用主が負担します — 労働者が支払う費用はありません。また、原則として過失を問わない無過失(no-fault)制度のため、自分のミスでけがをした場合でも、業務に関連する負傷であれば請求できます。
誰が請求できるか — ビザ・雇用形態を問わない
労災補償はビザの種類に関係なくすべての労働者に適用されます。ワーキングホリデー(subclass 417/462)、学生ビザ、卒業生ビザ(subclass 485)などの一時ビザ保持者も同様に保護されます。フルタイム・パートタイム・カジュアル、試用期間中の労働者、派遣(labour hire)労働者もすべて含まれます。ただし、ABNで働く独立請負人(independent contractor)は適用の仕組みが異なるため、別途確認が必要です(下記FAQ参照)。
請求手続きの5ステップ
請求は大きく5つのステップで進みます: ① すぐに負傷を報告(雇用主・監督者に知らせ、事故記録簿に記録) → ② 治療(GPを受診し、certificate of capacityを取得) → ③ 請求書の提出(州の機関または雇用主の保険会社) → ④ 保険会社の決定(受理/拒否) → ⑤ 拒否された場合の不服申し立て・紛争手続き。どの段階でも行き詰まったら、州の機関の相談窓口やLegal Aid・コミュニティ・リーガルセンターの無料法律支援を活用できます。
certificate of capacity — 労災専用の診断書
一般の診断書(medical certificate)ではなく、労災専用の書式であるcertificate of capacity(QLDはwork capacity certificate)をGPに依頼する必要があります。この書式には負傷の内容とともに、就労の可否 — 就労不可(unfit)、調整された業務なら可能(suitable duties)、通常勤務可能 — が記載され、休業給付の支払いの根拠になります。初診時に必ず「仕事中にけがをした(work-related injury)」と伝えることで診療記録に残り、有効期間があるため治療が長引く場合は更新が必要です。
- 負傷後すぐに雇用主・監督者に報告し、事故記録簿(register of injuries)に記録されたことを確認する
- GPの受診時に「仕事中の負傷」であることを伝え、certificate of capacityを取得する
- 請求書の控え、受付番号(claim number)、すべての治療費の領収書を保管する
報告・請求の期限は州によって異なります。負傷後はできるだけすぐに、遅くとも数か月以内に報告・請求するのが安全で(例: QLDは原則として6か月以内に請求)、正確な期限は該当州の機関の公式サイトでご確認ください。
必要書類と準備するもの
請求書の提出に必要な書類は州によって少しずつ異なりますが、共通する主なものは以下のとおりです。書類が完璧に揃っていなくてもまず提出して後から補完できるため、期限を過ぎないことを優先してください。雇用主の保険会社名やpolicy numberが分からない場合は、州の機関に問い合わせて照会できます。
- certificate of capacity(QLDはwork capacity certificate) — 初回発行分と更新分をすべて保管
- 事故の経緯の記録 — 日付・時刻・場所・目撃者の情報、事故記録簿への記載の有無、現場の写真
- 給与明細(payslip)・雇用契約書などの収入証明と、治療費・薬代の領収書
雇用主が請求書の取り次ぎを遅らせたり拒否したりしても、労働者が直接、州の機関・保険会社に提出できます。提出を妨げられてもあきらめないでください。
何が補償されるか — 4つの項目
労災補償で受けられる項目は大きく4つです。具体的な支給率・上限・期間は州によって異なるため、該当州の機関の公式サイトでご確認ください。
GP・病院での診療、手術、理学療法、薬代など、負傷の治療に必要な合理的な費用を労災保険が負担します。領収書はすべて保管してください。
負傷で働けない間、賃金の一部を週給の形で受け取ります。支給率と期間は、州や経過期間によって異なります。
リハビリ治療とあわせて、調整された業務(suitable duties)で段階的に復帰するreturn to work計画や、必要に応じた職業再訓練を支援します。
永久的な障害が残った場合は、障害の程度の評価に応じて一時金(lump sum)を別途請求できます。評価・請求の手続きは州によって異なります。
ステップ別・実践のコツ5つ
実際の請求プロセスで結果を左右するのは記録です。以下の5つを守れば、後で紛争になった場合でもはるかに有利になります。
- 負傷したらすぐに報告し、口頭での報告の後はメッセージ・メールなどの書面の記録を残しましょう — 「聞いていない」という争いを防げます。
- 初診時に必ず「仕事中にけがをした」と伝えましょう — 診療記録に残る業務関連性への言及が、最も強力な証拠になります。
- 事故現場の写真、目撃者の名前・連絡先、当日の勤務記録(roster・出退勤記録)をすぐに確保しておきましょう。
- 保険会社・雇用主とやり取りした通話の日付、担当者名、請求受付番号(claim number)を一か所にまとめておきましょう。
- 英語に不安がある場合は、無料の電話通訳サービスTIS National(131 450)を通じて州の機関と通話できます。
注意点とよくある失敗
労災請求でよくある失敗です。その多くは初期に記録を残さなかったことが原因なので、けがをした当日の対応が最も重要です。
- 報告を先延ばしにすること — 時間が経つほど負傷と業務の因果関係の立証が難しくなり、州ごとの請求期限を過ぎてしまうおそれがあります。
- 雇用主の「保険を使わず現金で解決しよう」という提案を受け入れること — 公式な記録がなければ、後遺症が出ても補償を受けられません。
- 受診時に業務との関連を伝えず、Medicareや自費だけで処理すること — 労災の記録が残らず、その後の請求が難しくなります。
- 請求を理由とした解雇・シフト削減・脅迫を我慢すること — 違法(general protections違反)なので、Fair Work Ombudsmanや州の規制機関に通報してください。
- certificate of capacityの更新を忘れたり、保険会社の独立医療評価の要請に応じなかったりすること — 休業給付が停止される可能性があります。
役立つ公式リンク
- Safe Work Australia(新しいウィンドウで開く)
連邦の政策機関Safe Work Australia — 州ごとの労災補償制度の比較と、全国共通の基本情報を提供しています。
- icare NSW(新しいウィンドウで開く)
NSWの労災保険運営機関icare(規制機関はSIRA) — NSWでけがをした場合の請求受付と手続きを案内しています。
- WorkSafe Victoria(新しいウィンドウで開く)
VICの労災補償の運営・規制機関WorkSafe Victoria — 請求様式、手続き、雇用主の義務を案内しています。
- WorkSafe Queensland (WorkCover)(新しいウィンドウで開く)
QLDの労災保険機関WorkCover Queensland — オンラインでの請求受付と通勤事故(journey claim)の案内を提供しています。
- Fair Work Ombudsman(新しいウィンドウで開く)
Fair Work Ombudsman — 労災請求を理由とした解雇・不利益な取り扱いなど、general protections違反の相談・通報(13 13 94)。
よくある質問
ワーキングホリデーや学生ビザで働いていても労災補償を受けられますか?▾
はい。オーストラリアの労災補償はビザの種類に関係なくすべての労働者に適用されます。ワーキングホリデー(subclass 417/462)、学生ビザ、卒業生ビザ(subclass 485)の保持者も、仕事中にけがをした場合は市民権者・永住者と同様に請求でき、労災請求そのものがビザの資格に影響することはありません。
カジュアル(casual)やパートタイムの労働者でも請求できますか?▾
はい。フルタイム・パートタイム・カジュアルなど雇用形態に関係なく、労働者であれば労災補償の対象です。試用期間中や勤務初日にけがをした場合でも、給料を現金で受け取っていた場合でも請求できます。
労災保険料は自分で払う必要がありますか?雇用主が保険に入っていない場合は?▾
いいえ。労災保険への加入は雇用主の法的義務であり、保険料も全額雇用主が負担します。労働者の給与から労災保険料を差し引くことは違法です。雇用主が保険に加入していなかったとしても、州ごとに労働者を保護する仕組みが用意されていますので、あきらめずに該当州の機関に問い合わせてください。
通勤中にけがをした場合も労災として認められますか?▾
州(state)によって異なります。例えばQLDは通勤中の事故(journey claim)を比較的広く認める一方、NSWは業務との実質的な関連性(real and substantial connection)がある場合に限定し、VICは原則として認められる範囲が狭くなっています。通勤・休憩中の事故については、必ず該当州の機関の公式案内をご確認ください。
雇用主が報告を妨げたり、請求したら解雇すると言われたりしたらどうすればいいですか?▾
労災請求を理由とした解雇・脅迫・シフト削減などの不利益な取り扱いは、Fair Work Actのgeneral protections(一般的保護)に違反する違法行為です。雇用主が報告・請求を妨害する場合は州の労災規制機関(SIRA、WorkSafeなど)に、解雇・報復についてはFair Work Ombudsman(13 13 94)に通報できます。「保険を使わず現金で解決しよう」という提案は公式な記録が残らないため、受け入れないでください。
ABNで働くcontractorでも労災補償を受けられますか?▾
原則として、ABNで働く独立請負人(independent contractor)は雇用主の労災保険の対象外であり、自分で傷害保険・所得補償保険を用意する必要があります。ただし、実質的に労働者と同じように働いていた場合は、州ごとの基準により労働者とみなされて(deemed worker)補償を受けられるケースがあります。デリバリーなどのギグワーク従事者はギグワークのガイドも併せて確認し、判断が難しい場合は州の機関や無料の法律支援に問い合わせてください。
報告期限が過ぎてしまいましたが、今からでも請求できますか?▾
請求期限は州によって異なり(例: QLDは原則として負傷後6か月以内に請求)、期限を過ぎていても合理的な理由があれば例外的に認められる場合があります。時間が経つほど負傷と業務の因果関係の立証が難しくなるため、今からでもできるだけ早く該当州の機関に問い合わせて手続きを進めてください。