職場内セクシュアルハラスメントへの対応
オーストラリアの職場内セクシュアルハラスメントの法的基準と2022年のRespect@Work改正(使用者の予防義務)、社内手続き・Fair Work Commission・AHRCの三つの通報経路、証拠の記録と心理的支援まで、被害者を中心にまとめました。
職場内セクシュアルハラスメントとは — 法的基準
オーストラリア連邦法Sex Discrimination Act 1984は、セクシュアルハラスメント(sexual harassment)を望まない(unwelcome)性的な性質の言動であって、合理的な人から見て相手が不快感・屈辱感・脅威を感じる可能性を予想できる行為と定義しています。加害者の意図は要件ではなく、反復される必要もないため、たった一度の行為でも成立し得ます。直接的な身体的接触だけでなく、性的な冗談・発言、懇親会での言動、テキスト・メッセンジャー・SNSのメッセージ、写真の送信なども含まれ、加害者は上司・同僚はもちろん顧客・取引先など第三者である場合もあります。何よりも覚えておくべきことは、セクシュアルハラスメントは被害者の落ち度ではないという点です。
賃金・解雇の紛争(work-complaint)とは異なる別個の法制度です
賃金の未払い・不当解雇のような労働条件の紛争は、Fair Work Ombudsmanへの通報や不当解雇の救済手続きなど別の経路で扱われ、当サイトの職場問題の通報(work-complaint)ガイドが案内します。セクシュアルハラスメントには、Sex Discrimination ActとFair Work Actのセクシュアルハラスメント禁止条項という別個の法制度が適用され、通報機関・手続き・期限が異なります。性的な性質を持たない一般的ないじめ(bullying)も救済手段が異なるため、二つの問題が重なっている場合はそれぞれの経路を併せて検討するのがよいでしょう。
2022年Respect@Work改正 — 会社の積極的な予防義務
2022年に成立したRespect@Work改正法は、オーストラリアの職場セクシュアルハラスメント法制度の大きな転換点です。核心は使用者(会社)に課された積極的な予防義務(positive duty)であり、会社はセクシュアルハラスメント・性差別・性的に敵対的な職場環境を可能な限り除去するための合理的かつ比例的な措置を事前に講じなければなりません。「被害者が通報しなければ会社に責任はない」という古い枠組みはもはや有効ではありません — 通報を受けてからの対応だけでは不十分であり、予防そのものが法的義務です。
対応の基本的な順序:安全 → 記録 → 相談 → 通報の選択
①安全の確保 — 差し迫った危険があれば000、心理的な危機には1800RESPECT(24時間)。②記録 — 日時・場所・内容・目撃者をその都度残し、メッセージを保存します。③信頼できる窓口への相談 — 同僚・家族・1800RESPECT・労働組合・Legal Aidと話しながら選択肢を把握します。④通報の選択 — 社内手続き、Fair Work Commission、AHRC、(刑事レベルであれば)警察のうち、状況に合った経路をご自身のペースで決定します。
- 会社はセクシュアルハラスメント予防の方針・研修・安全な通報体制を備える義務があります — なければそれ自体が義務違反の状況証拠になり得ます
- 顧客・取引先など第三者によるセクシュアルハラスメントのリスクも会社の予防義務の範囲に含まれます
証拠の収集と記録 — 何をどう残すか
どの通報経路を選ぶにしても、記録が最も強力な備えです。記憶は時間が経つと薄れ、セクシュアルハラスメントは目撃者のいないところで起こることが多いため、その時に残した記録の価値は大きいです。出来事の直後にできるだけ早く、感情よりも事実を中心に書き留めておいてください。日記・メモアプリ・自分宛てに送ったメールなど、作成時点が残る方法がよいでしょう。
- 各出来事の日時・場所・具体的な行為・前後の文脈・目撃者の名前を出来事ごとに記録
- テキスト・メッセンジャー・メール・SNSのメッセージは削除せずスクリーンショット+原本を保存(送信者・日付が見えるように)
- 社内通報の内容、会社の回答・対応(または無対応)も日付とともに記録 — 書面(メール)で通報すれば自動的に記録が残ります
通報経路の4つ — どこに通報するか
通報経路は大きく四つに分かれ、互いに排他的ではありません — 社内通報を飛ばして外部機関へ行くこともできますし、並行して進めることもできます。各経路の期限と要件が異なるため、決める前にLegal Aidなどの無料相談でご自身の状況に合った組み合わせを確認するのがよいでしょう。
会社の通報手続き(HR・苦情処理)に書面で通報して記録を残します。会社は予防義務に従って調査・保護措置を行わなければなりません。加害者が決定権者で社内手続きを信頼しにくい場合は飛ばしても構いません。
在職中でハラスメントが継続するリスクがある場合はstop sexual harassment order(中止命令)を申請できます。2023年3月からはFair Work Actにおけるセクシュアルハラスメント禁止に基づく紛争申請(調停、原則として行為後24か月以内)も可能です。
Sex Discrimination Actに基づく申立てを行うと無料の調停(conciliation)が進められます。退職後も可能で、行為後24か月が経過すると終結される場合があるため、急ぐのがよいでしょう(最新の期限はAHRCで確認)。調停が不成立の場合は連邦裁判所への提訴につながることがあります。
強制わいせつ・性的暴行など刑事犯罪レベルの行為は警察の管轄です。緊急の場合は000、それ以外は警察通報電話(131 444、一部の州)または最寄りの警察署に通報してください。刑事通報と上記の民事的な経路は同時に進めることができます。
心理的支援と相談窓口 — 一人で耐えないでください
一人で抱え込む必要はありません。以下の支援窓口はほとんどが無料で、ビザの状況に関係なく利用できます。相談したからといって通報の義務が生じるわけでもないので、判断がつかないときはまず話してみてください。
- 1800RESPECT(1800 737 732) — 性暴力・セクシュアルハラスメントに関する24時間無料の全国相談。電話・オンラインチャットのどちらも可能で通訳対応
- Lifeline(13 11 14) — 心理的な危機への24時間支援。不安・不眠などが続く場合はGPを通じた心理治療の連携(Mental Health Treatment Plan)も検討
- 英語に不安がある場合はTIS National(131 450)の通訳サービスを通じて、ほとんどの政府機関・相談サービスと無料で通話可能
注意点とよくある誤解5つ
被害者が対応の過程でよく陥る落とし穴と誤った思い込みです。あらかじめ知っておくと権利を守るのに役立ちます。
- 「自分が神経質なのか」という自己検閲 — 法的基準は「合理的な人」の観点であり、加害者の意図や「冗談だった」という弁明は要件ではありません。不快だったなら記録から始めてください
- 時間を漫然と過ごすこと — AHRCへの申立ては行為後24か月が経過すると終結される場合があり、解雇が絡むと21日という期限もあります。通報を決めていなくても、記録と相談は先延ばしにしないでください
- 「先に会社へ通報しなければ外部への通報ができない」という誤解 — 社内手続きは前提条件ではなく、AHRC・FWC・警察に直接通報できます
役立つ公式リンク
- Respect@Work (AHRC)(新しいウィンドウで開く)
AHRCが運営するRespect@Work公式ポータル — セクシュアルハラスメントの法的基準、使用者の予防義務(positive duty)、労働者の権利に関する情報
- Australian Human Rights Commission(新しいウィンドウで開く)
オーストラリア人権委員会(AHRC) — Sex Discrimination Actに基づく申立ての受付と無料の調停(conciliation)手続きの案内
- Fair Work Commission — Sexual Harassment(新しいウィンドウで開く)
Fair Work Commission — stop sexual harassment orderおよびセクシュアルハラスメント紛争の申請方法と様式
- (新しいウィンドウで開く)